なぜヴォルデモートは賢者の石をあれほどほしがったのか?
賢者の石というものは、かなり古くから言い伝えられている。かつては本当に存在すると信じられていて、実在の人物ニコラス・フラメルがつくり上げたと考えられていた。ハリー・ポッター作品に登場する賢者の石は、伝説のひとつに出てくるものに似ている。どちらも卑金属(鉄、アルミ、銅など)を黄金に変え、命の水(飲めば不老不死になる霊薬)をつくり出す石で、フラメルがつくったとされている。
ヴォルデモートがこの石を切望したのは、不老不死の霊薬のためだ。当時、ヴォルデモートは半生半死の状態にあった。肉体を持たず、他人のからだを借りるしかなかった――クィレル教授にしたように。リリーとジェームズ・ポッターを殺し、ハリーも殺そうとしたあの夜から、ヴォルデモートは(自分で言ったように)「ただの影と霞(かすみ)にすぎない」存在になっていた。
リリー・ポッターが命をかけてむすこを救おうとした時、彼女がしめした愛がハリーを守った。だからヴォルデモートが杖(つえ)を向けた時、ハリーの命を奪うのではなく、その呪いはヴォルデモートにはねかえった(その時、ハリーのひたいにあの有名な稲妻の傷がついた)。クィレルがハリーにさわれないのも、この愛と守護のためだ。にくしみに満ち、ヴォルデモートとたましいを分かち合っているクィレルのような者にとって、これほどすばらしいものが刻印された相手に触れるのは苦痛でしかないのだ。
ヴォルデモートとクィレルが無垢(むく)なユニコーンを殺したのも、死を克服して不老不死になるという欲望のためだった。ユニコーンの血を飲めば、生きながらえることができる――たとえ死のふちにあったとしても。だが、これほど純粋な存在の命をうばうことは、邪悪な行為だとされている。結果として、ユニコーンの血がくちびるに触れた瞬間から、その者は呪われた人生を生きることになる。
とはいえ、ユニコーンの血はたしかにヴォルデモートの力をいくらか回復させた。賢者の石まで手に入れていたら、このふたつの効果が組み合わさることでヴォルデモートは自らの肉体をつくりあげ、だれかに寄生する必要もなくなっていただろう。11歳の3人組にはばまれたものの、この本の最後でヴォルデモートは死ななかった。完全に生きていると言えない相手は、殺すこともできないのだ。
まとめると、ヴォルデモートは自らの肉体と力を復活させ、死に打ちかつ方法を見つけるため、賢者の石を手に入れたくてたまらなかった。
今回は失敗に終わったが、己の命をのばす方法を追い求めることを、ここであきらめるはずもない……